顎関節は滑膜性の関節に似ていますが、実は摺りから発達した繊維関節で、神経支配が7つあってこれらが寄り集まって関節円板というクッションの役割をする軟骨となっています。そしてこれらの筋肉はすべて内臓筋由来のもので、関節がやられると内蔵筋の障害として症状が現れます。そして内科的疾患と同じような心身症になることがあるといわれています。このことから、東京大学口腔外科の西原克成先生も顎関節を『命の要のちょうつがい』と位置付けられています。その顎関節を支えるもっとも効果的な器官が歯です。そのため噛み合わせのちょっとした狂いが顎関節症につながることもあり、噛み合わせの重要性について認識する必要があります。 |
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最近、堺市開業の筒井豊先生が、顎関節症を下顎孔伝達麻酔によって、開口障害などの症状を劇的に改善されているという内容のご講演をうかがいました。先生はその中で、1994年に、顎関節学会の特別講演で日系アメリカ人のDr.Hatasakaが「顎関節症は筋肉の病理であり、咬合異常は顎関節症を起こすものではない。顎関節症の原因は1に筋肉、2に顎関節、3に咬合である」と話されていたことを紹介されました。先生によると、顎関節症の主因は、開口筋である外側翼突筋のスパスム(過緊張)によるもので、伝達麻酔により、そのループ(悪循環)を遮断してやることで著明な改善が得られ、再発も非常に少ないとのことです。また精神的なストレスによっても、筋肉のスパスムは起こり、人によっては度々再発を起こすとのことでした。実際にこの方法を行なうと、非常に効果的に顎関節症状を改善できます。 |
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また、口腔機能と健康のかかわりについてでも触れましたが、顎関節症は体全体の変形症の一症状ということができ、横寝やうつ伏せ寝、頬杖などの習慣があると顎関節に持続的な力がかかり、症状を悪くしていくことになります。体の使い方に著しい左右差があったり大きな力がかかっていたりすると、顎関節を支える頭蓋骨にも歪みが出てくるといわれています。関節を支える基準になる部分が狂うことは大きな問題で、整体などでは『頭蓋骨調整』という方法で対応しているようです。しかし、根本的には日常の体の使い方のアンバランスが原因といえ、そこを治さないと根本的な解決とはならないでしょう。 |
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矯正によって顎関節症が起こる、などといわれることがあります。このことは、いろいろな示唆を含んでいると考えられます。顎関節症は、前に述べたように主因が筋肉にあれば、いろいろなストレスによって顎関節症が発現することとなり、たまたまその人が矯正を行なっていると、それに結び付けられやすいといえます。しかし、成人で本来のかみあわせと違う位置で、咬合している場合や、早期接触があった場合、矯正とは無関係とはいえないでしょう。人間の体はある程度許容範囲を持っています。例えば堤防を想像してみてください。ある範囲は平らでその上にいても問題はありません。しかし斜面に立ってしまうと転げ落ちてしまいますね。ですからある範囲を越えると突然障害が起こってくるといったことがあります。ですから障害が起こる場合、ある程度素因があってがけっぷちに近いところに立っていたということがいえるでしょう。 |
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下顎に入れたスプリント |
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また、顎関節症の治療でよく使用される、スプリントと呼ばれる、プラスチックのプレートについてですが、一般には、夜だけ使用するので効果が確実な方がいいとして、かなり大きなものや舌に触るものを入れている場合が多いようです。しかし、嘔吐反射が起こる人も多く、なかなか慣れにくく、継続して入れてもらいにくいのが現状だと思われます。またスプリントは使用時間が短いと効果が少ないという側面もあります。そこで、私は各務肇先生のポールスプリントからヒントを得て、舌運動を阻害しないスプリントを考案し、臨床に応用しております。これにより、違和感や発音障害も非常に少なく、長時間の使用が可能になりました。ただ、スプリントを長期間入れると歯の沈下を招き、広義の矯正力として作用するため、私の場合矯正時に意図的に24時間入れる以外は、症状のある初期以外は睡眠時と、仕事や運転で無意識に緊張して噛みしめを起こすときに限定して装着するように指導しています。 |
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口元から健康を考えるより転載 |